2018/11/27

渾身の一冊『新版 インターネットの心理学』

『新版インターネットの心理学』

 手前味噌ながら、待望の新刊です。

 『新版 インターネットの心理学』が、12月14日店頭に並びます(アマゾンだと12日とか)。ボクにとっても読者にとって待望の新版です。出版社は旧版と同じくNTT出版です。税込み価格で4千円弱。同時刊行の電子版は少し安くなるようです。

 原著は2016年の正月刊行です。それからすでに3年近く経ちます(が、内容は古くなっていません)。実は出版予告を見た時点で翻訳権の獲得を画策しました。しかし、いろいろな事情で手続きが進まず、膠着状態でした。

 ある日、後輩から第二版の翻訳は出ないのかとの照会があり、現状を説明しました。その直後、一念発起。出版社との交渉を再開、何度もやりとりし、ようやく出版に漕ぎ着けました。当初の予定より2年近く遅れましたが、こうして本の形になるのは何にも変え難い喜びです。

原著の初版から二版までの17年間のネットの変化は表紙にも反映されています。初版では個人(の脳)の拡張が表現され、第二版ではワイヤーが絡み合い、交流が強調され、すっかり社会空間化したようすが表現されています。

 装丁は今回も松田行正さん。彼の手がけたカバーは旧版では直線の雨垂れでしたが、新版ではもつれ合う毛糸のような線に変わっています。原著カバーの変化と呼応しているように見えます。

 さて今回は後輩2人と分担して下訳を作り、そこから先をボクが引き受けました。何と言っても3人の中では一番時間がありましたから(時間確保が退職の一因だったかもw)。で、この1年、寝ても覚めても翻訳、翻訳、翻訳。追い込みに入ると担当編集者とはホットライン状態。終わってみると、あちこち急にガタが来て、いまや、その後始末w もう翻訳はこれが最後。渾身の翻訳です。

 原著は第二版ですが、内容が大幅に刷新され、ページも1.5倍に増えています。そこで訳書は、そのことがわかるように「新版」としました。タイトルこそ「心理学」ですが、それに限定することなく広く考察がなされています。方法論ありきではなく、問題ありき。それも本書の特長です。

 新版も旧版同様、インターネット時代の心理学のテキストとして読めます。

 本書には、いまインターネットを巡って問題になっていることの基本事象、理論が過不足なく盛り込まれています。研究にも実践にも役立つはずです。そのため事項・人名索引も付けました。引用文献リストには適宜、訳注を付けました。

 一人でも多くの方に読んでもらいたいと思っています。


新版 インターネットの心理学

概要
 ネット上で、なぜ、どのように人の心や行動は変わるのか? SNS、いじめ、炎上、集団力学、プライバシー、ジェンダー、子供とネット、オンラインゲーム…… ますます広がるインターネットの影響と問題対応を説き明かす。ネット心理研究の基本書。初版刊行から17年、その間のインターネットをとりまくドラスティックな変化を取り込み、大幅にバージョンアップした原書第2版の邦訳。待望の新版。

目次
 日本語版に寄せて
 図表リスト
 新版 はしがき
 謝辞

 第1章 心理学から見るインターネット
「インターネット」とは
ネット上の言葉
オンライン行動に理論を適用する
インターネット・ユーザーに力を与える
 第2章 あなたのオンライン人格──印象形成の心理学
オンラインは舞台
オンラインとオフラインで印象を形成する
レンズ越しに見る
 個人ウェブサイトとソーシャルネットワークにおける印象形成
我々は自己愛傾向を強めているのか
キーボードを使いこなす
 第3章 インターネットの集団力学
オフラインとオンラインにおける集団の出現
同調
集団規範
集団極化
集団動員
仮想作業グループ
 第4章 オンライン攻撃の心理学
フラストレーションと攻撃
オンラインコミュニケーションの曖昧さ
匿名性
報復
カタルシス──うっぷん晴らしは良いことか?
サイバーストーキング
インターネット世界の攻撃様式
オンライン攻撃行動の低減戦略
 第5章 ネットにおける好意と恋愛──対人魅力の心理学
オフラインでの対人魅力の基盤
オンラインにおける対人魅力
オンラインデート行動の心理学
インターネットと「対人」魅力マジック
 第6章 ネットにおける利他主義──向社会的行動の心理学
インターネット世界の気まぐれな親切
人はなぜ助け合うのか?
オンラインにおける向社会的行動
オンラインでは誰が誰を助けるのか
偽装と欺瞞
何かお困りですか?
 第7章 オンラインゲーム行動の心理学
ビデオゲームの分類
誰がなぜプレーするのか?
ゲーム機構と人間行動
ビデオゲームの心理学的影響
ビデオゲームの効用
シリアスゲーム──教育、訓練、健康のゲーム化
 第8章 子供の発達とインターネット──オンラインで成長すること
人間発達の生態系
認知発達
身体発達
社会・情緒的発達
性的発達
子供の発達とインターネット──良いことを促し、悪いことを避ける
 第9章 ネットにおけるジェンダー問題とセクシュアリティ
男性と女性──異性ではない
ジェンダーと言語
オンライン言語──ピンクやブルーで入力している?
インターネットとLGBT問題
オンライン・セクシャルハラスメント
インターネットにおけるセクシュアリティ
インターネット・ポルノグラフィ
開拓時代におけるジェンダー問題とセクシュアリティ
 第10章 オンラインプライバシーと監視の心理学
「プライバシー」の歴史と意義
オンラインプライバシー
収益モデルと「ビッグデータ」
監視
オンラインプライバシーの管理戦略
プライバシーの今後
 第11章 時間つぶしとしてのインターネット
年中無休
インターネットの依存的特性
インターネットの依存的空間
原因と治療
苦悩の命名──依存? 過剰利用? 自己耽溺?
 第12章 豊かなインターネット生活へ
善玉、悪玉、厄介者
技術決定論の再考
共同謀議にふさわしい場所

 訳者あとがき
 原注
 索引



原著初版(1999)

原著二版(2016)

旧版(2001)