脳研究者池谷裕二の全知全能 54(週刊新潮 2024年7月11日号 p.88)
「命名」の不思議なパワー〔抜粋〕
名前をつけられたウシは牛乳の出がよい――。そんなデータがあります。ニューキャッスル大学のバーテンショー博士らが15年前に発表した論文*です。調査によれば、英国の酪農家の46 %がウシに名前をつけていたそうですが、名前をつけて飼育する酪農場では、泌乳期間の平均乳量が一頭あたり7938ℓだったのに対し、名前をつけていない 酪農場では7680ℓでした。約3%というわずかの差ですが、統計的に有意な違いがあるそうです。
やはりウシも名前で呼ばれるのは嬉しいのか、と納得したくなりますが、おそらくこの理由は、ウシ側ではなく、ヒト側にあります。 名前をつけると飼育者の感情移入が強まります。そのぶん丁寧に世話をするようになり、ウシの健康状態がよくなるのでしょう。あるいは逆に、もともと大切に世話をしていた相手には名前をつけたくなるという側面もあるかもしれません。いずれにしても、「名前」に秘められた不思議なパワーを感じます。
やはりウシも名前で呼ばれるのは嬉しいのか、と納得したくなりますが、おそらくこの理由は、ウシ側ではなく、ヒト側にあります。 名前をつけると飼育者の感情移入が強まります。そのぶん丁寧に世話をするようになり、ウシの健康状態がよくなるのでしょう。あるいは逆に、もともと大切に世話をしていた相手には名前をつけたくなるという側面もあるかもしれません。いずれにしても、「名前」に秘められた不思議なパワーを感じます。
池谷裕二『すごい科学論文』に収録
*元論文にあたりたく、検索するも辿り着けず。
この論文で思い出したのは、奈良市保健所の例。保健所では、預かった保護猫一匹一匹に名前を付けている。付けるのはもっぱら、獣医師の江端資雄さん(71)。
「(名付ける時は)孫を意識している。孫に喜んでもらえるとうれしい」。飼い主募集では、写真とともに名前も掲載。この方法は功奏、4年連続「殺処分ゼロ」を記録。「名前を付けることはスタートで、猫を大事にする、大切に扱うスタート。皆がちょっとでもほほ笑んでもらう、ほっこりしてもらう名前を付けたい」。
2023/09/28「ユニークすぎる名前話題 4年連続「殺処分ゼロ」奈良市」(テレ朝news)
2023/09/30「ハチャメチャ」子猫、人気上昇で「てんやわんや」…素敵な名前で飼い主募集中(読売新聞オンライン)
名前があれば呼びかけられる。命名ではその猫の特徴や預けられた際の経緯も考慮される。それは世話行動にも影響しよう。