2012/10/26

一本取られた

部屋に入ると、口を開けたまま母が寝ている。

呼びかけてもうんともすんともしない。耳元でボクの名前を言っても反応がないし、ぴくりともしない。脇の下をくすぐっても反応がない。だんだん不安になってくるが、息はしている(笑)。

5分ぐらいしたら、かすかに声が聞こえた。
目をつぶったまま、「うるさい」。
まったく〜。

病院に行く時間も迫って来たので、スタッフの人に頼んで、車椅子に座らせてもらった。それでも目はつぶったままだし、ずっと寝ているように見える。

玄関に行くと、既に介護タクシーが来ていた。病院へ向かう車内でも眠ったまま。

血液検査、受診となんとか済み、介護タクシーを待っている間、急に話しかけて来た。

母「ありがとう」
ボク「こちらこそ、産んでくれてありがとう。今年でもう61だよ。お互い、年取ったね」
母「…もう終わりっ。疲れた」
ボク「えっ?」
母「じゃあね、あの世で」
ボク「ちょっと待ってよ」
母「ちょっとだけね」
ボク「もうちょっと」

ふたたび眠りの世界へ行ってしまった。今の会話はいったい何だったのだろう。「じゃあね」と口にしたとき、少し笑った。ボクの口癖を真似したのだ。

老人ホームに戻ったら、終始ニコニコ。でも結局、1回も目を開けなかった。

世間は石原都知事の辞職。後継と彼が指名した猪瀬は長野市の出身。地元紙は、彼の同期生インタビューを載せている。

フルネームで呼んでくれてありがとう

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