鹿島茂の連載「神田神保町書肆街考」52に、吉祥寺のサンロード先にある古書店「藤井書店」の藤井正さんのすごい話が紹介されている。
出典は、青木正実さんの同人誌『古本屋』6号に掲載されたご本人のエッセイ「古書の街に救われた命」。
1941年当時、藤井さんは岩国海軍基地にいた。暮れ、寒い部屋で当直将校の飛行中尉と会話を始めた。
藤井さんが神保町の巌松堂書店にいたことがわかると、「あの店か。角っこの」と話し始めた。
それがきっかけで、二人は親しくなり、4度目の夜勤で白の襟巻きであらわれた中尉は「必ずまた神保町へ復帰してほしい。そして、これから続く若い学徒にいい本を安くあたえてもらいたい。お互いあすの日がわからないが、おれの方はダメだ」と言い残した。結果的に、それが永遠の別れとなる。
翌日、非常呼集があり、同年兵180名の中で藤井上等兵だけが基地待機を命じられ、その後、大阪海兵団に移動。それが命拾いをもたらす。中尉が特権として与えられた「たった一つの願い」として、それを上官に託したのだった。
藤井さんのエッセイは『私の古本人生』(こつう豆本103、日本古書通信社(1993))に収録されている。
2014/09/24
フルネームで呼んでくれてありがとう
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