「私が本裁判の原告になったのは金銭が目的ではありません」で始まる。
締めくくりは、「立法府と行政府が何もしてくれないとなれば、私共は司法に訴えるより術を持ちません。素朴な考えかもしれませんが、法の精神は生まれながらに与えられた人の権利を守ることにあると思います。同情はもう結構であります。どうか事実そのものを、又物事の本質を真正面から見据えて、論理にかなった判断をして下さる様、望みます」。
謙二の人生を読み進んできて、この陳述を読むと、迫力を覚える。賠償することなく、平和祈念事業から、「慰労金」国債10万円分と「慰労品」(銀杯)で済ます日本政府(対象者は軍務期間3年未満の軍人恩給欠格者)。恩給も、勤務期間と階級で受給額に差がある。大将は年額800万円を超え、佐官クラスで500万円ほどだという。どこまでも軍隊の論理がついてくる。
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小熊英二『生きて帰ってきた男』から。