2015/09/20

つくる文化人類学

ベトナムのファッションデザイナー、ミン・ハン(Minh Hanh)さんの講演を聞いた。ファッションショーをはさみながらの1時間はあっという間に過ぎた。

ベトナムで縫製産業は重要産業だが、それは輸出用工業製品を作るだけ。その現状を変えたい。そこで、ミンさんが注目したのが少数民族の紋織り

ベトナムには53の少数民族が住んでいる。もちろん国境で分割されたから「少数」なのであって、隣国にいる同じ民族の人を合わせると、少数ではない。

ベトナム国内で最も多いのがキン族の86%、残り14%を53民族が占める。

ミンさんのデザインは、少数民族の織物を取り込んだもの。そのために、彼女はかれらの村にその都度、滞在して、くらしのようす、織り方や裁縫を観察する。それはフィールドワークと変わらない。アウトプットだけが文化人類学者と異なる。エスノグラフィを残す人類学者に対して、彼女は衣装をつくり、残す(伝統を生かす)。いわば、彼女はつくる文化人類学者。

村の女性たちは、いまの生活で事足りているのに、「なぜ、それ以外に織るのか」と、自分たち用以外に織ることをなかなか納得してくれなかったという。その意味では、ミンさんの仕事は村人の価値観を変えたとも言える。

講演ステージの両脇では、2つの民族の人が機織り。民族名は忘れてしまったが、地べたで織る姿は2000年前と同じ方法らしい(当時の織り棒と織物が遺構で発掘されている)。いわば生きた遺跡である。

今回は、日本のビンテージ着物を使ったファッションも見せてくれた。100年前の生地が甦る。

フルネームで呼んでくれてありがとう

スティールの『 ステレオタイプの科学 』に、こんなエピソードが紹介されている。  ある伝説の英雄と同姓同名の人物に出会ったことで、研究上の疑問が解けたという話である。  シャーマン・ジェームズは、人種による健康格差の問題に取り組む公衆衛生研究者である。たとえば、アメリカの黒人は白...