2024/04/03

フルネームで呼んでくれてありがとう

スティールの『ステレオタイプの科学』に、こんなエピソードが紹介されている。

 ある伝説の英雄と同姓同名の人物に出会ったことで、研究上の疑問が解けたという話である。

 シャーマン・ジェームズは、人種による健康格差の問題に取り組む公衆衛生研究者である。たとえば、アメリカの黒人は白人より高血圧症の割合が高い。所得、学歴、肥満度、喫煙といったリスク要因をコントロールしても、差が大きすぎる。アフリカ系遺伝子の可能性があるともされたが、アフリカの人々の血圧は高くない。
 ある日、ジェームズは通院している黒人高血圧者の話を聞くことにした。地域コミュニティのリーダーで成功物語の持ち主で印象に残っていたのである。
 男性宅を訪れ、インタビューを始めた。しばらくすると家の中から妻の声がした。「ジョン・ヘンリー、昼の時間よ」。男性は、民間伝説の英雄である「ハンマー使いのジョン・ヘンリー」と同姓同名だったのである。
 ヘンリーは劇的勝利のあと、消耗したまま亡くなってしまう。その顛末に、ジェームズは、黒人に高血圧症が多いことを説明するカギがあることに気づいた。「困難な心理社会的ストレスに対処するための長期的・高度な努力は最も簡潔な説明かもしれない」というサイムの指摘は、ジョン・ヘンリーにもあてはまる、と。彼は、「積極的な問題解決の試みが高血圧をもたらす」という仮説を立て、それを「ジョン・ヘンリー主義」(ステレオタイプ脅威)と呼んだ。その後、この主義度を測る尺度を作り(12項目の5件法)、検証したところ、みごとに実証された。

 ジョン・ヘンリーの代償を軽減するためにはどうすればいいのか。それがつづく第8、9章で語られる。

 付記 ジョン・ヘンリー主義による死は日本にもあるはずだ。

フルネームで呼んでくれてありがとう

スティールの『 ステレオタイプの科学 』に、こんなエピソードが紹介されている。  ある伝説の英雄と同姓同名の人物に出会ったことで、研究上の疑問が解けたという話である。  シャーマン・ジェームズは、人種による健康格差の問題に取り組む公衆衛生研究者である。たとえば、アメリカの黒人は白...