続けて言うと「おんゆうじゅう」。
ちょっぴり、おまじゅう、に似ているのが自慢です。
昔は、自分の名前があまり好きではありませんでした。こんなへんてこな名前なんかではなく、もっと日本人っぽい、ふつうの名前だったらよかったのになあ、と思っていたのです。子どもの頃のわたしにとって、「ふつう」とは、「日本人っぽさ」のことでした。
わたしは、一九八〇年に台北で生まれました。生まれた台湾には、ほんの三年足らずしか住んだことがありません。
高校の中国語の授業で(略)。中国人の先生は、大学院の留学生でまだ二十代前半。その彼女が感嘆する。
—— わあ、とってもやさしそうな名前ね!
中国人の先生が発音したわたし自身の名前の響きが、わたしはナツカシカッタ。
ウェンヨウロウ。中国語で「やさしい」を意味するコトバは、温柔、と書いて、ウェンロウ。父は、「温」という姓と呼応させたときに最高の名前をわたしに与えたかったという。それで、わたしの名前は「又柔」となった。
最近、自分の姓名が、韓国語では、온유쥬、と書くのだと知った。
「온」で「オン」。「유쥬」の二文字で、「ユ・ジュ」。
オンユジュ、という音をあらわす三つのハングルは、子どもが三人仲良く並んでいるようで愛らしい。온유쥬、온유쥬、온유쥬……自分の名前をあらわすハングルを何度も書いて遊ぶ。「温又柔」を、ウェンヨウロウ、と名乗っていたら、韓国語によるわたしの姓名はこの綴りではなかったのだな、と思いながら。
温又柔『台湾生まれ 日本語育ち』白水社から
「又」は右手を表す象形文字、「右」の原字。かばう・たすける(佑)の意があり、「友」「有」の原字でもある。