訳者経歴に「東京大学経済学部を病気のため中退」とある。ずいぶん個人的なことを書くのだなあと思ったら、つづけて「北欧児童文学の翻訳家として活躍したが、1969年没」と書かれている。そうだったのか。であれば、ふれずにはいられない。計算すると、41歳という若さだ。
訳者自身の「解説」がある。それによれば、この本(左写真)は全集最古の作品。
山室静さんの「附記」にはこうある、訳者は「ふしぎな熱病にかかって、声もつぶれ……」、それでも「いくらか病気がよくなると」「スエーデン語の学習をはじめ」「ついにマスター」。「活躍のまっ最中に」「自動車にはねとばされて不慮の死をとげられたのです」。
病没とばかり思っていたので、さらに訳者の無念さが伝わってくる。
最後に、冨原眞弓さんの「ムーミン谷の魅力 1」が付いている。
ほかの生きものが自分とおなじ考えでなくても、だれもふしぎだとは思わないし、批判めいたことも言わない。個性だとか権利だとかと大上段にかまえなくても、だれもがあたりまえに自分でいられる。だからムーミン谷はユートピア(ありえない場所)なのだ。本書は、「解説」(1969年執筆)、「附記」(1978年執筆)、「ムーミン谷の魅力 」(2011年執筆)と、3段かまえのていねいなあとがき。いずれも読みがいがある。
ヤンソン 下村隆一/訳『ムーミン谷の彗星』講談社文庫。