2017/01/16

通訳者はなくならない

袖川裕美『同時通訳はやめられない』平凡社新書

 面白いエピソード、ショックな出来事がたくさん書かれている。なかでもショックだったのは、通訳者が戦犯として起訴された話だった。
 元の話は立教大学のシンポジウムで武田珂代子さんが講演した内容である。
第2次世界大戦では、通訳者(台湾・朝鮮出身者、日系アメリカ・カナダ人も含む)も戦犯として起訴された。信じられないことに死刑になった人もいる。起訴・有罪の理由は、捕虜・住民の虐待・拷問・殺傷、通訳しなかった、虐待や拷問をしていた部署に所属していたなどである。
戦争では、直接捕虜に接し、上官の「悪魔の言葉」を伝えるため、「可視性」があるのだという。
戦争時の通訳は、諜報・情報、プロパガンダ、捕虜の対応、休戦交渉、占領、戦犯裁判などにおいて、きわめて重要な役割を担う。と同時に大きなリスクも負う。
複数の言語を解することで、敵からも味方からも信用されず、スパイ、裏切り者の烙印を押されがちである。


折しもあろうに「法廷通訳問題だらけ ジャカルタ事件公判誤訳連発、内容鑑定へ」(東京新聞、2016年10月18日)

フルネームで呼んでくれてありがとう

スティールの『 ステレオタイプの科学 』に、こんなエピソードが紹介されている。  ある伝説の英雄と同姓同名の人物に出会ったことで、研究上の疑問が解けたという話である。  シャーマン・ジェームズは、人種による健康格差の問題に取り組む公衆衛生研究者である。たとえば、アメリカの黒人は白...