南さんが学部ブログに書いてくれた記事を読んでいたら、似た書名の本が書棚にあるのを思い出した。
その記事は、シェイクスピアの『冬物語』(ちくま文庫)のすすめである。本書はかつて「冬の夜ばなし」として訳されていた。そもそも原題はThe Winter's Tale。南さんによれば、winters' tales、a winter's taleとは「長くて退屈な冬の夜に、暖炉のそばなどで語って聞かせるオハナシ」のことで、おとぎ話に近い。
この記事のオチ?は、今月21日から静岡のSPACでの連続上演の紹介である(宮城聰演出)。
似た書名の本とは、イサク・ディネセン(本名は、カーレン・クリステンツェ・ブリクセン)の『冬の物語』(1942年刊:横山貞子訳、新潮社、2015年刊)だ。家族が買った本で、版画(?)のカバーがすてきで記憶に残っていた。作者はAi Nodaさん、とある。さて、確かめると、この本の原題もWinters' tales。
帯の紹介が的確だ。
「北欧の春は華やかに押し寄せ、美しい夏が駆け抜けると、長く厳しい冬がひたすらつづく。大自然のなかに灯された命の輝き」。
横山さん(1931年生まれ)が「あとがき」で書く。
「ナチス・ドイツ占領下の作品(本書)が当時のデンマークの人たちにどんな意味をもったか、それを想像できる年代に、私は属している」。
訳者あとがきに、ディネセンの名前に関する記述がある。
ディネセンの「最初の本『七つのゴシック物語』がアメリカで出版されたときには、イサク・ディネセンという男名前を使った」。1937年刊の第2作では「アメリカ版ではイサク・ディネセン、イギリス版とデンマーク語版ではカーレン・ブリクセン(本名の略)を使った」。イサクは、旧約聖書に出てくる人物の名前。「彼は笑う」という意味があるという。
第1作は「無名のデンマーク人女性が英語で書いた作品である。イギリスで出版を断られ、今度は男名前のイサク・ディネセンという筆名で、アメリカの出版社に送った。『七つのゴシック物語』Seven Gothic Talesは、1934年に出版されると、たちまち広く読まれることになった。作者がじつは女性だったとわかると、本の評判は『さらに』高くなった」(二重カギカッコは引用者)。
第1作は女性の書いたものだからという理由で出版を断られ、男性名でアメリカに挑み、出版を手にする。第2作はアメリカでは同じ男性名、作家としてデビューを果たしたあとは女性名。そのあとに出たにもかかわらず、本書は男性名で出されている。なぜだろう。
