2017/06/11

鶴見俊輔の『敗北力』から

「兵役拒否と日本人」(自著未収録稿)
 幣原を決意させた満員電車の声
  ……幣原喜重郎の自伝『外交五十年』という本がある。
 彼はそのなかで「よくアメリカ人が日本へやってきて、今度の新憲法というものは、日本人の意思に反して総司令部のほうから迫られたんじゃありませんかと聞かれるのだが、それは私の関するかぎりそうじゃない、決して誰からも強いられたんではないのである」「私は戦後、はからずも内閣組閣を命ぜられ、総理の職についたとき、すぐに私の頭に浮かんだのは、あの電車の中の光景であった」といっている。
 その電車の中の光景というのは(略)。
 二十代ぐらいの男が大きな声で、向こう側の乗客に向かって、こういっている。
 「いったい、君はこうまで日本が追い詰められていたのを知っていたのか。なぜ戦争をしなければならなかったのか。おれは政府の発表したものを熱心に読んだが、なぜこんな大きな戦争をしなければならなかったのか、ちっともわからない。戦争は勝った勝ったで敵をひどくたたきつけたばかり思っていると、何だ、無条件降伏じゃないか。足も腰も立たぬほど負けたんじゃないか。俺たちは知らぬ間に戦争に引き入れられて、知らぬ間に降参する。自分は目隠しをされて屠殺場に追い込まれる牛のような目にあわされたのである。けしからぬのは、われわれを騙し打ちにした当局の連中だ」 
 民衆体験から生まれた非戦憲法 
 戦争に対する反応の仕方は過去の問題ではなくて、われわれの未来に属する問題であった。このことは、その後もあらわれてくる。十五年間の戦争に対する各個人の抵抗曲線は、そのままいまの日本の軍国主義的傾向の復活に対する抵抗曲線としてあわられている。

鶴見俊輔 2016『敗北力』編集グループSURE



 ただでさえ、いいものはいい。ましてや中から生まれたものであれば、それは希望だ。

フルネームで呼んでくれてありがとう

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