盧溝橋事件(1937年)以後、陸軍は増兵を重ね、40年には兵士は百万人を超えた。「このような中、兵器の名前も満足に書けない兵士というのは、陸軍にとって現実的に大きな問題となっていたのです。この問題を解決するため」同年、陸軍は兵器名称用制限漢字表を通牒(通知)する。同表は兵器名称に使う漢字を1235字に制限しただけでなく、84種類の略字を採用した。例えば、浅(淺)、囲(圍)。臨時国語調査会が編纂した『常用漢字新辞典』(三省堂編輯所)が同表にも採用された。
同表作成の経緯を陸軍省兵器局長、菅晴次が国語審議会懇親会で発言している(以下、要旨)。
現在陸軍で使用している兵器は2300種類に及ぶ。部品になると、もっと増える。それらには難しい名前が使われている。簡潔な感じを与える漢語、国粋主義に依る無理な翻訳語を用いる傾向がある。こうした軍隊語を簡易化したい。
安岡孝一 2011『新しい常用漢字と人名用漢字』三省堂