英語の場合、通例、姓名の頭文字は大文字で綴られるが、彼女はすべて小文字で表記している。この選択からは……著述家・社会活動家・教育者ベル・フックスが思い起こされる。実際、ボイドはこの表記について説明する中で、フックスの著作が好きだと述べている。
そこには「私」を大切なものにしたくないという想いが込められていると言えるだろう。ご立派な大文字の「識者」として権威をまとうよりも、「みんなのひとり」でありたい。名前よりも言説の内容に目を向けてほしい。しかし完全に匿名になりたいわけではなく、自分は自分と示したい。
私事になるが、……個人サイトを開設し、そこで漢字の本名をカタカナで表記して以来そのまま名乗っている者としては、こうした部分に現れるボイドの感覚……は確かに共感できるもので、このたび翻訳を担当できたことをたいへん嬉しく思っている。
(野中モモの同書「訳者あとがき」から)
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小文字化は、日本語ではカタカナかひらがなか。名前の表記スタイルで意思表示。小文字の名前はめずらしいから目立ち、注目される。「なぜ?」と聞きたくなる。そこで「実は……」と続く。
原著 It's Complicated は無料で入手できる。
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bell hooks、ベル・フックス(本名:Gloria Jean Watkins)は母親と祖母の名前を使っている。名前と苗字の両方の頭文字を小文字にしているが、それは彼女の仕事の中で大切なものは、本人曰く「私がどんな人物であるかということよりも、本の内容」ということを示すものである。
(ウィキペディアより)