東京新聞【核心】2020年4月27日
新型コロナウイルスの感染予防として提唱される、人と人の距離を保つ「ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)」は、世界でどのように取り組まれているのか。各国の事情や国民性を踏まえ、さまざまな取り組みが行われている一方、その影響が軍事や宗教活動まで及んでいるケースがみられる。
この記事の中で、タイ・バンコクのショッピングモール内のエレベーターのようすが紹介されている。外向きに貼られた床のシールの矢印に従って立つ人の姿が写っている。
カフェ店員のガーイさん。「シールがなければ大勢が乗ってくるので、怖くて階段で乗り降りすると思う。タイ人は決められたことは守るので、とてもいいアイデア」。
矢印の大活躍だと矢印フェチは喜んだが、そうではなかった。「タイ エレベーター」で画像検索したら、矢印による指示はヒットせず、もっぱら足跡ばかり。いくつか紹介しよう。
・「タイの新型コロナ対策 エレベーターに乗るときは・・・」2020/03/18
著者のichika@バンコクさんによれば、「今週に入ってからは、エレベーターの乗り方にも制限がかかったらしいです。これには、びっくりしました。写真にあるように、エレベーター内で、人とくっつかないように、壁面を見るというもの。エレベーターを乗る前にも、枠みたいなものが引かれていて、その中でスペースをあけて、待っているらしいです・・・。実際にこういう乗り方をしているのか聞いたところ、さすがに壁面をみているわけではないそうですが、足型のある人数以上は乗らないようにしているらしいです」。
対応が日本より早い。
・「バンコク都庁の新型コロナ対策・エレベーター内では「壁に向かって立て」!」2020/03/19
新明天庵さんの記事。「不安感の緩和には役に立つかと。電車やバス、コーヒーショップやレストランなどでも出来る限り取り入れるのは・・・やりすぎでしょうかね? でも、この対策は、日本でも取り入れてはどうでしょうかね?」
同感。
・「タイの体温計がポンコツすぎる!新型コロナで深刻な状況も、ちょっと笑える…」2020/03/28
カワノアユミさんの記事。「タイではアパートにプールやジムが併設されているんですが、それもすべて閉鎖されています。そこまで規制するのは良いのですが、エレベーター内に足跡のシールが貼られていて、『乗るときは壁向けに立て!』と書いてあるんですよ。もはや、ここまで来るとギャグなのかなと思ってしまいます」。
ちりつもでしょう。
・「非常事態宣言下のタイで働く日本人たち@タイ・バンコク」2020/04/12
高田胤臣さんの記事。「エレベーター内もソーシャルディスタンスが設定されるなど、ぎすぎすした空気になっている」は、写真のキャプション。そう感じる人もいる。
封じ込めに成功したベトナムでも足跡が活躍していた。
・「新型コロナ禍で「社会距離戦略」広がる、ホーチミンのマンションで」2020/03/27
「同乗者は5人までがルールとなっており、住民の大半がこれを厳守している。このマンションには合わせて4基のエレベーターがあり、マンション管理委員会は1基での試行を経て、住民の賛成を得て全4基で実施することとした」。
住民の同意を得てからというのがいい。これなら、措置に納得できるだろうし、厳守する人も多い。
本文中、ソーシャル・ディスタンシング(social distancing)が「社会距離拡大戦略」と訳されている。これまでの中で一番フィットするsocial distancingの訳し方だ。社会距離は人との距離*(親密距離、個体距離、社会距離、公衆距離)の一種類だから。
日本の例は思って「エレベーター コロナ対策」で検索したが、以上のような例は見当たらなかった。出てくるのは張り紙による呼びかけと消毒用アルコールの設置。これでは効果ないよね。
中国では爪楊枝作戦も行われている。
【中国のマンション】エレベーターの下に爪楊枝。これでまた爪楊枝が売り切れて爪楊枝拾いが拡がる♪
azabu11さんの記事。「新型コロナウイルスの感染が広がる中国。感染防止のために苦肉の策を講じている所がある。マンションに設定されているエレベーターの中を見ると、壁に付けられた発泡スチロールにつまようじが刺さっている」。
*人との距離(エドワード・ホール『かくれた次元』)
1. 密接距離 intimate distance:相手との距離は46cm以内。相手の体温や匂いがわかり、親密な間柄でとられる。手をつなぐ、肌と肌の触れ合い、匂いによるコミュニケーション。
2. 個体距離 personal distance:46-122cm。自分の独立性を保つためにとる。手を伸ばせば、触れることのできる距離。親しい相手との距離。
3. 社会距離 social distance:1.2-3.7m。相手に触れることのできない距離。同僚同士の会話はじめ、公的な場でのコミュニケーションで見られる。
4. 公衆距離 public distance:3.7m以上。演説や講演会での距離。これを個体距離に近づけるくふうをし、コミュニケーション効果を高めたのがヒトラー。
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矢印はどうやら少数派。足跡のほうが伝わりやすいものね、体の向きを指示するのには。デザインとしては矢印のほうがすっきりしているが、伝達面で足跡に劣る。
川浦康至 (2016) 矢印はすすり泣いている : 記号の楽しみ2 コミュニケーション科学, 44号.
