2020/08/07

個人による記録の価値

 9月9日発売予定。方方『武漢日記』河出書房新社。

方方 1955年、中国・南京生まれ。武漢在住の著名な女性作家。2010年、中国で最も名誉ある文学賞のひとつである魯迅文学賞を受賞。武漢を舞台に、社会の底辺で生きる人々の姿を丁寧に描いた小説を数多く発表。

 武漢日記は中国版ツイッター「微博」(ウェィボー)で毎晩公開された。これを読まないと眠れないという人まで出てきた。この日記、吉岡桂子さん(本当は吉の上の横棒が短い)が『世界』8月号でしている。「『武漢日記』に宿る特殊の中の普遍」。

 最後の小見出しが「特殊の中の普遍」。日記という個人的記述が持つ意味を、この言葉で吉岡は強調する。日記やインタビューといった個人的記録の重要性が凝縮された表現だ。

日記を始めた動機にも通ずるが、記録の大切さを訴えていた。「文章を書ける(ような教養のある)武漢人は(感染が拡大した)一月以降に自分が見聞きしたこと、感じたことを記録してほしい。今度の災厄に対して集団の記憶を残すのだ。(中略)身内を失った人々を探し、医師を探し歩くところから家族を失うまでの過程を記すことを助けてあげてほしい」(3月9日)。国家が都合よく編集し直した歴史でなく、人々がそれぞれに編む歴史の大切さを指摘したものだ。

「一つの国が文明国家であるかどうかの(略)唯一の尺度は、弱者にどう接するか、その態度だ」(2月24日)。

特殊の中に普遍がある。二〇二〇年の新型コロナウイルス禍を振り返るとき、世界で必ず読まれる作品になるだろう。

 中国で出版される日が来ることを期待する。