2023/06/02

『大恐慌の子どもたち』完全版ができるまで


四十年前にみんな(女性の生活史研究会)で訳した『大恐慌の子どもたち』、装丁を変えながら、また日本語版序文が加わったりと版を重ねつつもながらく絶版のままでした。

ところが、新型コロナの流行による経済格差問題から、内外で、この本が取り上げられる機会が増え、再刊の話が出てきました。原著を確認すると、1999年に追補版(初版刊行25周年記念版)が出ている。であれば再刊ではなく、追補版を訳出しようと話が進みました。問題は当時のメンバーで訳せないことでした。本田さんと田代さんは亡くなり、池田さんと伊藤さんも多忙だったりして、結局残ったメンバーは私のみ。訳し直すことを決めていたので、訳出期間を短縮するため、助っ人を探すことに。で、加わってもらったのが岡林さん。本田さんの研究仲間です。

翻訳を開始したのは2021年11月。当初、翌年夏の脱稿を目指していましたが、予想外に時間がかかり、一次稿の完成は半年後。訳稿作成に1年。

前回は適宜本文に盛り込んでいた「原注」を全訳して「注」として独立させ、旧版で省略した付録C(恐慌状況の国家比較)、そして新たに加わった11章を掲載。そして判型を四六判からA5判に拡大。それにもかかわらず484ページ。

脱稿から校了まで、索引作成作業も含め、7、8回は読んだでしょうか。途中でへばるかと思いきや、消耗することなく校了にこぎつけました。今回、カバーのデザインにかかわれたのは予定外でした。おかげで本書の骨子を反映したものになりました。

早いところ、たとえば紀伊國屋書店新宿本店には6月29日に並ぶ予定です。シャボン玉カバーを頼りに手にとっていただければ幸いです。

まだAmazonでしか紹介されていないので、ここにリンクを張っておきます。

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生活史は実は心理学を勉強したいと思った原点。しかし、きちんとした研究はできませんでした。翻訳はその代わり。

しばらく骨休めをしたいところですが、このあとちょっとした雑誌論文の執筆が待っています。おかげで無趣味の私でもなんとかなっています、老後生活。大恐慌の著者、エルダーも「名は体を表す」を地で行ってますね。いまなお仕事中。エルダーの名のとおり。

【おまけ】訳し終え、カバーのビニールがはげかかった原著近影。





フルネームで呼んでくれてありがとう

スティールの『 ステレオタイプの科学 』に、こんなエピソードが紹介されている。  ある伝説の英雄と同姓同名の人物に出会ったことで、研究上の疑問が解けたという話である。  シャーマン・ジェームズは、人種による健康格差の問題に取り組む公衆衛生研究者である。たとえば、アメリカの黒人は白...