2024/06/26

名前を消す

名札を取って名前を消す。こんな場面を「私と先生とピアノ」*1 で目にした。

沖縄に上陸した米軍が、岩穴にいる住民や兵士に向け「無駄な抵抗をやめて出てきなさい。水も食料もちゃんと準備されています」と日本語でアナウンス。もはや逃げる場所はない。怯え切った人たちが穴から出て捕虜になっていく。しかし、「絶対に捕虜になるな」*2 と教えられてきたももちゃん(主人公の女子生徒、17歳)たちは穴から出ていけない。「捕虜になることは自分だけの問題ではない」と教えられてきたからだ。「自分が捕虜になると、親や親戚、学校にはずかしい思いをさせてしまう」。そのとき、ももちゃんの頭にうかんだのは、本名を消すことだった。「名前わかんないようにしないと」。ブラウスや持ち物にシャツに縫い付けられていた名札を剥ぎ取ったのである。

原作の『ももちゃんのピアノ』*3 には、偽名を使おうと思いついたとも書かれている。「私、上地百子はこの世にはいません。私はいまから比嘉よしこになります。あなたも名前を変えてしまいましょうよ」。

*1「私と先生とピアノ」NHK
https://www.nhk.jp/p/etv21c/ts/M2ZWLQ6RQP/episode/te/XMNM9G47LQ/
初回放送:2023年11月4日(なんどめかの再放送:2024年6月27日 Eテレ)
ディレクターは、原作者の柴田昌平さんが務めた。

*2 そう子どもたちに教えた西岡部長(校長)は、「もっとも安全な首里の軍司令部に避難するために参謀室付けになるウラ工作を必死になってやり」、生き延びた。戦後は東京学芸大学教授として教壇にたった(沖縄の雑誌『青い海』1979年8月号〈ひめゆり戦史ーいま問う、国家と教育〉。

*3『ももちゃんのピアノ:沖縄戦・ひめゆり学徒の物語』文:柴田昌平 絵:阿部 結(ぽぷら社)
音楽を生きる力に変えて、沖縄戦を生き抜いたひめゆり学徒のももちゃん。戦中・戦後を中心にその半生を描いたノンフィクション。

番組内で流れた曲:
・ワイマンの「銀波」https://youtu.be/vRkio6GSqDo?si=UdmHXgM55_qCiZWh
・ベートーヴェンの「月光」https://open.spotify.com/intl-ja/track/33TVnToVvIPyk1Pku7pi4n
・東風平(こちひら)恵位作曲の「別れの曲」:https://youtu.be/Wsn6KmgAP0w?si=yh6xBW4oPjq5XTV3
 解説:戦場に響く相思樹の歌(別れの曲)https://www.sousiju.com/


「ひめゆり」「改名」で検索したら、思わぬ文献がヒットした。

西原彰一(2022).  沖縄県女子師範学校・沖縄県立(第一) 高等女学校における女学生の「改名」 :女学生の「個」と「同化」 総研大文化科学研究 (18) (17)166-(48)135, 2022-03-31