2026/02/02

災害犠牲者の名前を後世に残す

朝日新聞 2026年1月27〜31日 連載「てんでんこ」第1040〜1044回
「あなたの名前は」(全5回)

 東日本大震災後、被災地のあちこちに、犠牲者の氏名を刻んだ追悼碑ができた。一人一人が生きた証しである「名前」への向き合い方をたどる。

並んだ名前を見ていると、子どものときに戻った気がする。

「なんで慰霊碑まで必要? お金をもらってるのか」「お墓では足りないのか」。……町長も町議会も「役場職員だけを特別扱いしている」と、慰霊碑の建立に反対。最終的に「伝承碑」で決着、犠牲者の名前も人数も刻まれなかった。献花も法要も、手を合わせることも禁じる合意書が交わされたという。

愛梨(6歳)、春音(6歳)、明日香(6歳)、亮太(5歳)(日和幼稚園の送迎バスで亡くなった子どもたち)。…碑は触りやすいように、丸みのある、つるつるしたまくら型にした、という(閖上中前)。

「遺族の同意を得られた方のみ、お名前を掲載しています」。……「死者の名前は、具体的な教訓を導くためのメッセージでもある」。犠牲者の名を刻んだ金属板が並ぶのは、施錠された塔の内部。

103年前の関東大震災で亡くなった10万5千人超は、どこで暮らす誰だったのか。当時の東京市長、永田秀次郎は死者の名簿を作成するよう指示。未完で終わったが、調査表は残っていた。ただ東京都慰霊協会は氏名をいまなお秘匿。しかし、永田は私人として、うち5万8千人分の名前をタイルに焼き付け、高野山に託していた。それが10年前に見つかった。災害社会史研究者の北原糸子さんは「災害の中でも絶対に取り戻せない被害である『人』の存在を刻んでおこうという市長の執念」と。糸原さんは、タイルに残されていた氏名の名簿を自費出版した。


 名前は、誰もが持つ生きた証。その扱いを残された側は決められるのだろうか。名前は数で片付けさせない唯一の手がかりなのに。