長女はジアンちゃん。名前の意味は「存在」。何になりたいの?「お医者さん!」。
次女のロジンちゃんは「太陽」。「警察官になりたい。『警視庁捜査一課9係』というテレビドラマがかっこよかったから」。
三女はベルフィンちゃん。雪の下に咲く「雪割草」という意味。弁護士になりたいという。
名前はいずれもクルド語。
「存在」といった名前は日本では見たことがない。「在」とか「有」は近いのかもしれないが、深い
名前だ。3人の名前の共通点は「ン」で終わること。
メメトさんとエルマスさんの子どもたちだ。中近東の先住民族、クルド人の家族。クルド人は世界に2500万から3000万人いると言われるが、独立国家を持っていない。各国に分かれて住むため、どこの国でも少数派。エルマスさんはトルコから日本にやって来た。今年で15年。
クリンチさん家族は「法務省から在留特別許可をすでにとっている、きわめてまれなご家族です。トルコから逃れてきたほとんどのクルド人はいわば不法滞在で、本来であれば母国に帰るまで入管施設に入れられるのですが、収容人数に限りがあり、『仮放免』を申請してそれを免れている。たとえ国連が難民認定をした人であっても(母国で迫害を受けるおそれがある人を保護する制度)、トルコとの関係を優先する日本で難民申請が認められることはほぼありません」(クルドを知る会の松澤さん)。
森まゆみ「お隣りのイスラーム:日本に暮らすムスリムたち」第13回。「クリンチ・メメトさん&エルマスさん」。scripta 2015年秋号。