2016/10/05

名前どおり……6 「その名にちなんで」


 潤一郎という名前は、谷崎潤一郎からとった、と母から聞いた。
 本当は父が好きだった吉行淳之介の名をとって、淳之介という名前にしたかったけれど、画数が悪いといわれ、それで潤一郎にしたらしい。
 この名前のおかげで、ぼくは、子どものころから、文学に親しんでいる気持ちを持った。人に自分の名前を説明するときは、必ず谷崎の名前を出した。
 父も母も本を読む人だった。けれど、ぼくは恥ずかしいことに、大学に入るまでは、一般的に「文学」といわれているような作品は、一冊も読んだことがなかった。
島田潤一郎 (2014)『あしたから出版社』晶文社

 学生時代、一所懸命、文学作品を読もうとするが、頭に入らない。ある日、むずかしい本で倒れてしまう。しかし、その後、彼は「本」を作り始める。出版社の名前は夏葉社。ここの本を2冊読んでいた。『かわいい夫』『レコードと暮らし』。
 いい文章を読むと、「あっ、これは!」と思う。自分の頭のなかにあった言語化されていないなにかが、ここに、文章として再現されていることに、震える。ノートに写して、その文章を何度も読む。それは映像や音楽などと違って、読んでいる自分と、分かちがたく結びついている。(略) 本のなかに書かれている文章を通して、読み手は、世界を再体験、ないしは再発見する。(略)は ……世界は、これまでよりも鮮やかに見える。人々は、よりかけがえのないものとして、この目に映る。
同感だ。文章は結果であると同時に、原因にもなる。

 こう抜粋すると、無限ループに入りそう。ミルク缶を抱えた子どもの絵があるミルク缶のように。

■手元にあるのは5刷。3カ月間のあいだでの数値。早い。こんな本が売れるのはうれしい。

 

フルネームで呼んでくれてありがとう

スティールの『 ステレオタイプの科学 』に、こんなエピソードが紹介されている。  ある伝説の英雄と同姓同名の人物に出会ったことで、研究上の疑問が解けたという話である。  シャーマン・ジェームズは、人種による健康格差の問題に取り組む公衆衛生研究者である。たとえば、アメリカの黒人は白...