表紙装画 清水彩子さん |
書肆侃侃房のPR誌「ほんのひとさじ」vol.4(特集「音と記憶」)に載っていた大洞敦史さんのエッセイから。
幼稚園生のとき、二人の園児と砂場に自分の名前を書き合ったことがある。ぼくはひらがなで書いたが二人は漢字で書いていて、「漢字が書けないの?」とぼくに言った。漢字を知らなかったあのころ、言葉とはすなわち声だった。しかし今は大方において文字である。
黙読が増え、その分、文字の言葉が増えた。著者の声が聞こえたら、この文章も印象が違うのかもしれない。黙読とは自分の声で読むことだ、と遅ればせながら気づいた。