男ばかりの6人きょうだい。トーベは、きょうだいたちがあまりにもアトスと違うことに驚いた。
「この中ひとりの哲学者を誕生させたなんて、染色体の見事なことといったら!」。
トーベにとってはアトスの名前が、母親が大好きなデュマの小説『三銃士』のリーダー的存在である銃士アトスからきているというのも愉快だった。そして名は体を表す。ぴったりの名前になったのである(※小説の登場人物の名前を付けるのは初めて聞く)。
1943年、トーベはアトス・ヴィルタネンと知り合う。哲学者で政治家、新聞記者の彼を好きになる。トーベはトーベ・ヤンソン。ムーミンの作者。
トーベの母親は1882年、スウェーデン生まれのシグネ・ハンマルステン。牧師の子で6人きょうだいの2番目。挿絵画家。1900年の国勢調査によれば、「家事手伝い」と登録されていたという(※国勢調査の回答をみることができる!)。若い頃からハムと呼ばれていた。父、ヴィクトル・ヤンソンは1886年、フィンランド生まれ、彫刻家で、彼は子供の頃からファッファンと呼ばれていた。子供たちは両親を、そう呼んだ。どちらもあだ名である。由来は諸説あるらしい。
フィンランドとスウェーデンの名前事情はわからないが、あだ名は社会習慣化しているのだろう。
彼女は絵画でもサインはトーベで通してきたが、1960年前後から苗字のヤンソンにした。
「『トーベ』はムーミントロールやイラストレーターのトーベにどうしても結びつくが、『ヤンソン』であれば誰であるかが特定されにくい。苗字の『ヤンソン』を筆名とすることで、ムーミンの作家というイメージを投げ捨て、新たな境地に身を置きたかったのである。こうして、絵画の世界でトーベは『ヤンソン』と名乗ることとなった(が、しかし、イラストの世界では『トーベ』で描き続けていた)。
ボエル・ウェスティン(畑中麻紀・森下圭子訳)『トーベ・ヤンソン』講談社。
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3月6日読了。ムーミンシリーズを読んでみよう。来日時のようすが記念写真付きで出てくる。出版関係者が硬い表情をしている。