2017/12/07

つづく「明治」

結婚を「入籍」という言葉でしかも、なかには「入籍させていただきました」という人までいる。そこまで戸籍が意識として浸透しているのかと思うと、以下のくだりは納得がいく。

井戸まさえ『日本の無国籍者』岩波新書

第6章 「戸籍」がなくなる日(抄録)
 明治政府は戸籍に別の働きを組み入れる。
 日本が近代国家として進んでいく上で、戸籍は国民に対して精神性や道徳性の規範を植え付けるものであると価値付けしていくのである。加えて帝国主義を広げていく手段としても使われ、戸籍は植民地政策において同化を求める術、もしくは排除、差別を具現化し見せつける道具としての性格を併せ持つようになった。
 戸籍制度の展開過程は、幕藩体制における身分規制からの解放ではあったが、家族関係の把握行為を通じて、そのあり方を法的に規制する過程でもあった。「政府にとってのぞましい社会」を作る基礎としての家族関係が、人為的に作り上げられたのである。
(遠藤が述べるように)近代国家として歩みを始めようとしていた日本は国民に対して、社会資本の整備や生活手段の充足といった物質的分野のみならず、倫理・教育・宗教・風俗といった精神的分野への介入を当然とし、実践する。
戸籍という制度が「明治的価値観」の植え付けであったことを松田道雄も指摘している。「子育て」という行為がどれほど国家的哲学を享有(生れながら持っていること)しているか。 明治政府の中心は井上毅。教育勅語で道徳の自主性を阻み、富国強兵の基礎を作る。戸籍は「はじかれる存在」を作ることで、戸籍意識を浸透させる効用を持つ。その先にあるのはナショナリズムであると、彼は指摘する。
 遠藤も言う。「社会が不況や停滞に陥ると、特定のエスニックグループを名指しして「国民」共通の敵に仕立て、その権利の享有を否定し、存在までも排斥することで心理的な一体性と優位性を得ようとするショービニズムが噴出しがちである」。

 そもそも戸籍は天皇の臣民(君主国(特に旧憲法下の日本)の国民)を綴る名簿。その形式は基本的に今も変わっていない。国民主権、基本的人権、男女平等。と「非戸籍の日本人」である天皇と皇族はまったく違う価値観を継承するという矛盾を抱える。そして「臣籍降下」は「皇統譜」「戸籍」「外国人登録」という序列を意味する。

 現存する律令時代の戸籍を見ると、戸籍の女子の名前は例外なく「◯◯女(メ)・売(メ)」である。



フルネームで呼んでくれてありがとう

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