2019/02/12

ニックネームによる逆効果の可能性

以下は、森千香子 (2019) 「コーナーストア・キャロライン事件」とは何か. UP, 556, 1-7. からの抜粋である。

 黒人街の小さなスーパー「サハラ・デリ・マーケット」。この店の名前がソーシャルメディアに躍り出たのは2018年10月10日のある事件がきっかけだった。買い物をしていた中年の白人女性が、店内で「黒人」に「性的暴行」を受けたと警察に通報したのである。

 事件が反響を呼んだのは、その黒人が母親と連れだった9歳の子供で、性的暴行の内容はお尻を触られたであったが、店内の監視カメラの映像からは子供のリュックサックが女性にぶつかったようにしか見えなかったことによる。

 近隣の住民が現場の様子を携帯で撮影し、フェイスブックで公開した。そこには、こう書かれていた。「拡散希望。コーナーストア・キャロラインと戦おう。白人女性が子供から性的暴行を受けたと警察に通報した。店内で話を聞いた。子供が軽くぶつかったようだが、彼女は触られたと主張し、9歳の子供を通報した。ご覧の通り、子供は泣き叫び、母親は怒っている」。

 興味深いのは、この映像が実名ではなくニックネームで拡散された点だ。コーナーストア・キャロラインはテレサ・クライン(53)が本名である。だが、あえて事件を象徴し、かつ覚えやすいニックネームで、ユーモアを交えながら情報拡散を狙う手法が用いられている。ただし、これに対してツイッター社は「何もしていない黒人を警察に通報する危険人物に親しみを与えてしまうから、ニックネームは逆効果ではないか」とコメントしている。

 森さんの論考には、似たケースとして、バーベキューをしていた黒人家族を「違法行為である」として通報したバーベキュー・ベッキー(BBQ Becky)、路上で水のペットボトルを「許可なく」売っていた8歳の女の子を通報したパーミット・パティ(Permit Patty)はじめ、いくつかが紹介されている。

フルネームで呼んでくれてありがとう

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