その集落に最初に電気が通ったのは、1959年(昭和34年)だという。日本国内でもっとも遅い時期だったのではないだろうか。その年に生まれた集落の子供には、照男、光男、明人と電気にちなんだ名前がつけられていた。年寄りたちは、電気が通った日の感動を昨日のことのように覚えていて、「今は楽になった」と言った。
安東量子 2019『海を撃つ 福島・広島・ベラルーシにて』みすず書房
その集落とは福島県内の阿武隈高地の、とある開拓集落である(としか本書には書かれていない)。電気開通の喜びが名前に託された。
あとがきに思いがけないことが書かれていた。正確な表題は「あとがきにかえて」、副題に、「安東量子」のこと、とある。本文は自身の名前のことで始まる。
自分で自分に名を与えてみよう。それはちょっとした思いつきだった。2011年の東大日本震災から遡ること1年ほど前のことだった。私は33歳だった。(略)自分に名前を与えようと思った。(略)「安東」は亡くなった母方の祖母の旧姓、量子は、本名の陽子(ようこ)を物理学の陽子(ようし)に読み替えて量子(りょうし)にもじった。できあがった「安東量子」という名を、私はとても気に入った。なぜだかこの名前が自分の居場所になるような気がした。(以下、略)
安東量子は、結果としてペンネームになった。そのペンネームの由来に言及したあとがきを初めて見た。本名は知らないが、陽子をようしと読みなおすあたり、科学関係の人かもしれない。続きは本書でご確認を。
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- 安東さんのブログ ETHOS IN FUKUSHIMA