2019/07/21
CoEのInternet Literacy Handbook (超長文)
2017年、欧州評議会(CoE)が「インターネットリテラシーハンドブック」の第2版を出した。
今回はフリーウェア。いい内容だ。レイアウトもいい。ヨーロッパ固有の情報が多いからだろう。日本語訳は出ていない。構成や人権重視のあたりは日本でも参考になる。ちょっと訳してみたので、紹介したい。
Internet Literacy Handbook
Council of Europe
Size :2.93 MB
Number of pages :147
Authors : Janice Richardson, Dr. Elizabeth Milovidov, J.D., Martin Schmalzried
[Free PDF] https://rm.coe.int/internet-literacy-handbook/1680766c85
【刊行趣旨】
オンラインの安全な利用にはインターネットの基本知識が欠かせない。本書は、その視点にたち、情報共有にかかわる倫理事項やリスクを多様な角度と実習で学べるように構成されている。読者対象は子供や親、教師、政策立案者である(はしがきから)。
【概要】
本書初版は2003年に発行され、その後、改訂を何度か行ってきた。デジタルメディアとプラットフォームによる自己表現に際して、それらのパワーやスピード、爆発的普及から多層的リテラシーが求められるようになった。オンライン活動の重要度の高まりは相互の基本的人権の重要性を高めている。本書は6つのテーマのもと、計26のファクトシート(FS)を設けた。各テーマの冒頭では、チェックリスト形式でポイントを紹介する。
【もくじ】
1 インターネット−いつでもどこでも
FS1 接続する
概要、インターネットガバナンス(統治・運営・管理)、教育的メリット、倫理的課題とリスク
FS2 オンライン登録とクラウド
概要、教育上の価値と重要性、倫理的課題とリスク
FS3 WEB2.0、WEB3.0、その先
概要、WEB3.0以降、教育への応用、倫理的課題とリスク
FS4 ブログとビデオブログ
概要、倫理的課題とリスク
FS5 外出先でのインターネット利用
概要、モバイルテクノロジー、この分野を理解することの重要性、倫理的課題とリスク
2 インターネット−アイデアや人をつなぐ
FS6 メールとコミュニケーション
概要、教育的重要性、倫理的課題とリスク
FS7 チャットとメッセージング
概要、倫理的課題とリスク
FS8 ソーシャルネットワークとソーシャルシェア
概要、教育的重要性、倫理的課題とリスク
FS9 個人情報とプライバシー設定
概要、インターネットプライバシー、倫理的課題とリスク
3 インターネット−知識空間に参加する
FS10 情報探索
概要、教育的な価値・関連性・重要性、倫理的課題とリスク
FS11 ウェブ情報の質をチェックする
概要、教育的重要性、倫理的課題とリスク
FS12 遠隔学習とMOOs
概要、遠隔学習の種類、遠隔学習の重要性、倫理的課題とリスク
FS13 オンラインでの購入
概要、アプリ内購入、消費者の権利、この分野を理解することの重要性、倫理的課題とリスク
4 インターネット−みんなのために
FS14 ビデオ、音楽、写真
概要、著作権、倫理的課題とリスク、教育
FS15 創造性
創造性を促すネット利用法、学習における創造過程の活用、倫理的課題とリスク、授業での創造性喚起
FS16 ゲーム
概要、自己啓発と教育的価値、倫理的課題とリスク
FS17 デジタル市民であること
概要、デジタル市民とは、教育的重要性、倫理的課題とリスク
FS18 デジタル子育て:プラス面と対策
概要、この分野を理解することの重要性、倫理的課題とリスク
5 インターネット−課題に取り組む
FS19 サイバー犯罪、スパム、マルウェア、詐欺、セキュリティ
概要、安全を確保する方法、自己啓発と教育的価値、潜在リスク
FS20 ラベリングとフィルタリング
ラベリング、フィルタリング、教育、論点
FS21 オンラインハラスメント:ブリング、ストーキング、荒らし
概要、サイバーブリング、レジリエンスの重要性と社会・情緒的学習、倫理的課題とリスク
FS22 助けを求める(試訳を下につけた)
概要、非合法コンテンツ、援助要請は基本的権利である!
6 インターネット−その将来
FS23 IoT モノのインターネット
概要、モノのインターネット、ウェアラブルテクノロジー、おもちゃのインターネット、この分野を理解することの重要性、倫理的課題とリスク
FS24 人工知能、自動化技術、革新技術
概要、最新動向、教育的メリット、倫理的課題とリスク
FS25 仮想現実と拡張現実
概要、教育的メリット、倫理的課題とリスク
FS26 人は商品か? ビッグデータ、データマイニング、個人情報
概要、教育的メリット、倫理的課題とリスク
FS22 助けを求める
インターネットは、世界中にある何十億ものデバイスをリンクするための相互接続されたコンピュータの地球規模のシステムです。それを可能にしているのはインターネットプロトコル群(TCP/IP)です。インターネットは最も分散化の進んだ通信メディアです。その点で他のメディアと大きく異なります。緩やかに接続された何十億ものデバイスは、通信と情報伝送を確保するため複数の経路が用意され、単独の管理点を持ちません。さらに、オンラインネットワーク・ユーザーは読者であると同時に、Web2.0(FS1「接続する」を参照)の出現以降は情報生産者でもあるのです。
➖ 今日、どんな人もオンライン上で情報を発信でき、私たちのデータの多くは「クラウド」と呼ばれる直接目に見えない場所に保存され、インターネットの将来について、そしてこれらの情報流通のごく一部まで制御される可能性についてたくさんの問いが出されています。私たちは、自分の子供や家族、そして自分たちにとってどんな発言や情報が不愉快で危険なのかを自分自身で判断できるか問うことが少なくありません。さらに重要なのは、私たちがどのようにすれば私たち自身と私たちの大事な人をネットから守ることができるかです。
■非合法コンテンツ
➖ 各国はそれぞれ国内法によって、どんなコンテンツ(情報内容)や行為が合法で非合法かを定義しています。したがって、通信手段としてのインターネットは規制対象分野として運用されています。「実生活」で非合法とみなされた行為はなんであれ、インターネット上でも同様に非合法とみなさなければなりません。しかし、インターネットの大規模なひろがりは、他者の権利を大きく脅かし、そのインパクトを増大させる可能性があります。たとえばオンラインでの「からかい」は、中傷またはそれ以上の悪影響をもたらしかねません。
➖ 非合法コンテンツを広く定義すると、法に違反して、個人ないし組織に害をもたらしたり、不利益を生じさせたりする可能性のあるあらゆる活動、内容物、情報の類をさします。
➖ 非合法コンテンツには、児童虐待の画像やWebサイト、チャットルームでの非合法行為(例、性的勧誘)、オンラインヘイト、外国人嫌悪のメッセージやWebサイトほかが含まれます。これらをはじめ、さまざまな形の非合法行為は、インターネットやその他のコンピュータネットワークを介して行われる犯罪に関する初の国際条約である欧州評議会サイバー犯罪協約、またコンピュータシステムを通じた人種差別主義や外国人嫌悪の類に関するサイバー犯罪協約の追加議定書の対象です。性的搾取と性的虐待に対する児童保護に関する欧州評議会協定(あるいはランサローテ協定)も、データの無許可の収集と保存、情報入手を対象としています。この協定は、性的勧誘を含むあらゆる形態の児童に対する性暴力を罰する初の国際条約です。
■援助要請は基本的権利である!
➖ インターネットはどこからでも誰でも容易にアクセスできるツールです。したがって、有害または不適切と判断されるコンテンツは、子供や若者、その他の弱い立場の人々に容易に届く可能性があります。世界人権宣言によれば、悪意から遠ざけ、あらゆる種類の差別や侵害から守られる権利は基本的人権です。さらに、国連・子どもの権利条約(UNCRC)は、子供の最善の利益のために活動する成人の役割を強調し、それゆえ有害なコンテンツや活動から子供を守り、子供の権利が尊重され守られ、そして実行されることを確実にするためにあらゆる措置を取るよう、政府と家族に責任を課しています。これには、子供を支援し、子供が成長し自分の能力を発揮しうる環境を提供するための法、健康、教育それぞれのシステムを提供することが含まれます。ヘルプラインやその他の報告体制は、これらのシステムにおける重要な要素です。
➖ 他の国際機関、とりわけ国際インターネットガバナンスフォーラムでの活動と協力して、欧州評議会はインターネット上の子供や若者の保護に関連して社会および家族の啓発活動に努めています。これには、適切な支援を得るために有効なツールや手順に関する身近な情報の提供が含まれます。
■利用法
・インターネット上で見つかった非合法コンテンツは種類にかかわりなくホットラインに報告できます。ホットラインは非合法の疑いがあるインターネット上のコンテンツを誰でも報告に使えるサービスです。INHOPEは、世界中の多くの国のインターネットホットラインの国際的な連合組織です。INHOPEが扱う非合法コンテンツの種類に関する詳細情報は同社のWebサイトにあります。
・非合法コンテンツの報告は <http://www.inhope.org/tns/contact-us/details.aspx> に行き、そこに表示される手順に従ってください。ホットラインは、そのコンテンツが非合法かどうかを確かめるため報告を精査し、もし非合法であれば、その発端を突き止め、そのコンテンツを削除するよう、当該国の法執行機関、またはインターネットサービスプロバイダに連絡します。
ヘルプラインに支援を求める
・子供と若者は、電話サポート、および電子メールやWeb、SMSによるカウンセリングサービスをヘルプラインに連絡することで利用できます。
・多くの国において、Insafe啓発センターは、オンラインでの経験や彼らが遭遇する有害な非合法なオンラインコンテンツにアクセスする若者の質問や心配に答えるため、その国のヘルプラインと協力しています。インターネット関連の問題に対処する多くのヘルプラインは、他のさまざまな「現実の世界」の問題を抱えている若い人々を助けることもできます。
・Child Helpline Internationalは、ヨーロッパ内外の多くの国で重要な連絡窓口です。子供向けヘルプラインのこの世界ネットワークは約150カ国で子供の権利を守るために活動しています。
・ふつうヘルプラインは24時間年中無休で開かれています。ここでのサービスはすべて無料で秘密を守り、電話、電子メール、テキストメッセージを逆探知することはありません。子供やティーンエイジャーは、さまざまなことを書くことができます。若者はチャットや電子メール、フォーラム、さらに伝統的方法でコミュニケーションできるようになっています。ヘルプラインのスタッフはそこで耳を傾け、彼らが自ら解決策を考え出せるように手助けします。
・自分の国の名前、「report」「helpline」の3語でWeb検索すれば、自国のヘルプラインが見つかります。
ソーシャルメディアプラットフォーム内の専用報告サービスを利用する
・Facebook、Twitter、Instagram、Googleといった多くのソーシャルメディアプラットフォームには、利用者にガイダンスを提供する安全センターと、不適切なコンテンツや活動を報告するオンライン報告サービスがあります。この機能は通常「サポート」ないし「ヘルプ」メニューの中に置かれています。たとえば、いじめの事例をソーシャルネットワーキングサイトに報告すると、攻撃的コンテンツの削除、さらには利用規約に違反した人々のアカウントの削除がなされる場合もあります。大半のサイトは同じような手順をとります。たとえばFacebookでは、どのコンテンツにもドロップダウンメニューがあり、利用者は投稿や写真を報告し、それらを見たくない理由を知らせることができます。このページには報告作成に関する情報が含まれています。
・すべての携帯電話事業者は、電話やWebチャット、Eメールによる支援、とりわけ家庭や子供向けにアドバイスを提供しています。たとえばボーダフォンは、親と子にアドバイスする「デジタル子育て」Webサイトや、パレンタルコントロールの設定「ガイド」を提供しています。また、SecureNetを通じてパレンタルコントロールやその他の安全機能を提供しています。Androidデバイス上のボーダフォン・ガーディアンアプリを使えば、迷惑な相手をブロックすることもできます。
■さらに詳しい情報
・UNCRC <http://www.ohchr.org/en/professionalinterest/pages/crc.aspx> またはUNICEFの作成した概要文書 <http://www.unicef.org/crc/files/Rights_overview.pdf> に、子どもの保護と援助の権利に関するいっそう詳しい情報があります。
・暴力からの保護と暴力の報告に関する詳しい情報は、欧州評議会の「暴力に対する統合戦略」で有用な情報が得られます <http://www.coe.int/en/web/children/integrated-strategies>。
・非合法コンテンツの報告は、INHOPE <http://www.inhope.org/> で受け付けています。
・Insafeのポータルサイト、インターネット安全センターのヨーロッパ・ネットワーク <https://www.betterinternetforkids.eu> は、ヨーロッパ各国内の連絡先とヘルプラインに関する情報を提供しています。
・ネットいじめを報告したり、援助を得たいときは、Childline <http://www.childline.org.uk> を利用してください。子供や若者向けには、無料の24時間ヘルプライン(電話08001111)があります。
・Befrienders.org <http://www.befrienders.org> は、援助が必要なときに最寄りの自殺防止ヘルプラインを探すWebサイトです。
・Europe Direct <http://ec.europa.eu/europedirect/index_en.htm> は、EUの問題に関する一般的質問や、国内のヘルプラインなど関連団体の詳しい連絡先直接知りたいときに使える無料サービスです。
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審議風景がビデオで見られる。
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